食料と農業の世界統計
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食品ロス「率」は誰の台所を測っているのか――分母のちがいが生む国際比較の落とし穴

食料と農業について、世界の統計を定点観測する

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「日本は高い」と言う前に、何と何を比べているのか

食品ロスの話題では、しばしば「日本は世界より多い/率が高い」という言い方がされます。ところが、この一文が成り立つためには、比べられている二つの数字が同じものを測っている必要があります。実際には、食品ロスの統計は国や調査によって、対象範囲も、分母の取り方も、集計の単位も揃っていません。まず確認したいのは、「量」と「率」がまったく別の指標だということです。

量は「どれだけ捨てられたか」を絶対値で示します。人口や食生活の規模が大きければ、それだけで大きくなります。一方の率は、捨てられた量を何かで割った比率です。この「何で割るか」が、比較の結果を大きく左右します。

世帯の食品ロス率は「使った量」を分母にしている

日本の統計の一つに、世帯を対象として食品の使用量・ロス量・ロス率を同時に把握するものがあります。ここでのロス率は、家庭に入ってきて実際に使われた食品の量を分母に置き、そのうちどれだけがロスになったかを示す構造です。つまり、この指標は「一人あたりどれだけ捨てているか」でも「国全体でどれだけ捨てているか」でもなく、台所に入った食材のうち使い切れなかった割合を測っています。

分母が「使用量」であることには、重要な含意があります。もともと購入量が少ない世帯では、同じ量を捨てても率は高く出ます。逆に、まとめ買いをして大量に使う世帯では、ロス量が多くても率としては目立たないことがあります。率だけを見て「無駄遣いが多い」と結論づけられない理由がここにあります。

同じ調査の中に、いくつもの切り口がある

この世帯調査が興味深いのは、単一の全国値を出して終わりにせず、複数の属性で分解している点です。公開されている表の構成を整理すると、次のような切り口が用意されています。

切り口何が見えるか読むときの注意
食品の種類別どの食材群でロスが生じやすいか皮や芯など不可食部の扱いが結果を左右する
食事区分別朝・昼・夕など、場面ごとの差外食・中食が多い世帯ほど家庭内の把握から外れる
世帯員構成別単身、二人、三人以上といった規模の影響世帯が小さいほど分母も小さく、率は振れやすい
食事管理者の年齢階層別調理を担う人の年代による差年代差は世帯構成や就業状況と絡み合う
食事管理者の職業の有無別就業しているかどうかの影響調理にかけられる時間の差が背景にある
年齢階層×職業の有無二つの要因を重ねた姿区分が細かくなるほど対象数は小さくなる

こうした分解が用意されているということは、逆に言えば「全国の平均値ひとつ」では説明できない構造がある、という調査側の認識の表れでもあります。

国際比較が難しくなる三つの段差

第一に、対象範囲の段差です。家庭内だけを見る調査と、生産・流通・小売・外食まで含めた推計とでは、そもそも数えている場所が違います。

第二に、可食/不可食の線引きの段差です。野菜の皮、魚の骨、果物の種をロスに数えるかどうかは、調査ごとに扱いが異なります。この線の引き方は食文化とも結びついており、下ごしらえの多い食習慣ほど不可食部が多く出ます。線引きの違いが、食習慣の違いとして誤読されることがあります。

第三に、測り方の段差です。世帯に記録を依頼する方式、廃棄物の組成を調べる方式、需給の差分から推計する方式では、拾える対象も取りこぼしも異なります。

読者としてできる確認

数字を目にしたとき、次の三点を確認するだけで、読み間違いはかなり減ります。分母は何か。対象はどの段階か。調査時点はいつか。特に世帯調査は、実施年度が限られている場合があり、その後の食生活の変化を自動的には反映しません。単発の調査結果を「現在の姿」として扱うと、時間の経過による差を、国の違いや文化の違いと取り違えることになります。

「日本は高い/低い」という結論を急ぐより、まず指標の設計を見る。統計を読む作業としては地味ですが、国境をまたいで数字を並べるときには、この手順が最も効きます。

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