「下がった」と言うとき、何が下がったのか
食料自給率は、その国で消費される食料のうち、国内生産でどれだけ賄えているかを表す比率である。比率であるということは、分子(国内生産)と分母(国内消費)の二つが同時に動くという意味だ。つまり数字が下がったからといって、国内の農業生産が必ず減ったとは限らない。分母が膨らんでも、比率は下がる。
先に断っておく。本稿が参照したのは、農林水産省が公表している「食料自給率の推移」および「総合自給率等の推移」という一連の表の、表名・対象期間・公表単位という書誌的な情報にとどまる。各表に収録された実数値そのものは本稿では確認していない。したがって、水準が高いか低いか、どの年にどれだけ動いたか、そしてその動きが何によって起きたのかという原因論は、本稿では書けない。ここで整理できるのは、比率としての自給率が統計上どういう型に分かれているか、そして複数の表をどう突き合わせれば長期の動きを追う準備ができるか、という手前の作業だけである。
総合自給率は「複数の物差し」の総称である
農林水産省が公表する自給率の統計には、総合的な自給率と、品目ごとの自給率が併存している。そして総合自給率自体も、単一の数字ではない。食料をカロリーに換算して合計するか、金額に換算して合計するかで、同じ年でも別の値になる。参照した表の名称が「総合自給率等の推移」と、「等」を含む形で立てられていること自体、この総称性を示している。
この違いは、比率の分母をどう重みづけするかの違いだ。カロリーで測れば、単位重量あたりのエネルギーが大きい品目の比重が上がる。金額で測れば、単位あたりの価格が高い品目の比重が上がる。どちらが正しいという話ではなく、「何を国の食料基盤とみなすか」という問いへの答えが二通りあるということである。
以下の表は、各統計表の定義欄や注記を確認して作ったものではなく、カロリー換算と金額換算という重みづけの性質から筆者が論理的に整理したものである。個別の表がどの型の系列を実際に収録しているかは、表ごとに定義に当たって確かめる必要がある。
| 指標の型 | 分母の重みづけ | 重く出やすい品目 |
| カロリーベースの総合自給率 | エネルギー量 | 単位重量あたりのエネルギーが大きいもの |
| 生産額ベースの総合自給率 | 金額 | 単位あたりの価格が高いもの |
同じ年の自給率を語っているつもりでも、どの型の数字を引いたかで議論の中身は変わる。表を開いたとき、まず確認すべきはその年の値ではなく、その列が何を分母に置いているかである。
総合値の動きを、分子と分母に分けて読む
総合自給率は、国内生産を国内消費仕向に対する比として表した数字である。したがってその変化は、生産側の変化と、消費側の量や構成の変化という二つの成分が合成された結果として現れる。値が動いたという事実だけからは、どちらの成分が効いたのかは判別できない。
この分解を統計で追おうとすると、総合値の系列を眺めるだけでは足りない。分子と分母それぞれに対応する系列を、同じ定義のもとで並べる必要がある。逆に言えば、手元にあるのが総合値の推移だけであるなら、「下がった」という観察から言えるのは比率が下がったということまでで、その原因を生産側に帰すか消費側に帰すかは、別の資料を伴わない限り保留するのが筋である。比率統計を扱ううえで、この保留は弱腰ではなく手続きである。本稿が原因を論じないのも、この理由による。
本稿の資料で扱えなかったこと
自給率をめぐっては、品目別の値や、分子・分母の内訳に当たる系列をどう読むかという論点がある。ただし本稿が確認したのは各表の表名と対象期間までであり、それぞれの表にどの系列が収録され、区分がどう立てられているかまでは確かめていない。したがって、特定の品目や特定の系列について本稿から言えることはない。
言えるのは手続きの話にとどまる。ある年の数字を引いて論じるときは、その値がどの定義の系列から取られたものかを、表の定義欄に戻って確かめる。同じ言葉で呼ばれる指標が複数ある以上、この確認を省くと、比較したつもりの二つの数字が別のものを指している事態が起こりうる。
統計を探すときの実務的な注意――2005〜2018年度分について確認した範囲で
以下は、本稿が収集した2005年度から2018年度までの表について確認した範囲の話であり、この期間の外については述べない。この範囲では、自給率の統計は対象期間ごとに別の表として整理されていた。2005年、2006年、2008年から2010年、2012年から2014年の各年について「食料自給率の推移」が個別に存在し、それとは別に2015年度から2018年度までの各年度分が「総合自給率等の推移」として並んでいる。
なお、2007年と2011年に対応する表は本稿の収集範囲に含まれていない。これらの年について表が公表されていないのか、公表されているが本稿が拾えなかったのかは、本稿では判断していない。長期の推移を見たい場合は、どの表がどの期間をカバーしているかを先に確認しておきたい。
また、同じ「自給率の推移」という主題でも、統計表として整理されたものと、指標として整理されたものが分かれている。上記の期間でも、前半は「関連統計表 食料自給率の推移」、後半は「関連指標 自給率の推移 総合自給率等の推移」という別系統の表になっていた。収録されている系列や区分が異なることがあるため、複数の表を接続して長期系列をつくるときは、定義の断絶がないかを点検する作業が避けられない。2018年度より後の年度についてどのような表構成で公表されているかは、本稿では確認していない。いま最新の数字を探す読者は、この記事の記述をそのまま現在の表構成の案内として使わないでほしい。
読者にとっての実際の使い方
自給率の数字を見て「高いか低いか」を判断するより先に、次の三つを自分に確認したい。第一に、それはカロリー基準か金額基準か。第二に、比較したい相手と同じ算定方法か。第三に、その値がどの表のどの期間から引かれたものか。
この三つを分けて考えるだけで、「自給率が下がった」という一文の扱い方は変わる。比率は便利だが、便利さの代償として、分子と分母の動きを一つの数字に押し込めてしまう。統計を扱う側の仕事は、その押し込められたものをもう一度開いて見せること、そして開けない部分については開けないと断ることにある。本稿が値にも原因にも踏み込まなかったのは、後者の実行にほかならない。
出典
- 関連統計表 食料自給率の推移(農林水産省, 200501-200512) https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003318357
- 関連統計表 食料自給率の推移(農林水産省, 200601-200612) https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003008634
- 関連統計表 食料自給率の推移(農林水産省, 200801-200812) https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003050839
- 関連統計表 食料自給率の推移(農林水産省, 200901-200912) https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003050460
- 関連統計表 食料自給率の推移(農林水産省, 201001-201012) https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003073808
- 関連統計表 食料自給率の推移(農林水産省, 201201-201212) https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003093254
- 関連統計表 食料自給率の推移(農林水産省, 201301-201312) https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003105085
- 関連統計表 食料自給率の推移(農林水産省, 201401-201412) https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003131952
- 関連指標 自給率の推移 総合自給率等の推移(農林水産省, 201504-201603) https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0004011381
- 関連指標 自給率の推移 総合自給率等の推移(農林水産省, 201604-201703) https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003282728
- 関連指標 自給率の推移 総合自給率等の推移(農林水産省, 201704-201803) https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0001781985
- 関連指標 自給率の推移 総合自給率等の推移(農林水産省, 201804-201903) https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003417214