平均と真ん中がずれている
世界銀行の統計(WDI)に集められた169か国のうち、人口に占める栄養不足の人の割合は、世界全体で8.5%(2023年)である。ところが、169か国を値の小さい順に並べて真ん中に来る国の値は5.3%(2023年)にとどまる。世界全体の数字のほうが、真ん中の国よりも3ポイントあまり高い。
この差は誤差ではなく、この指標の性質そのものを表している。世界全体の値は「世界の人口のうち何%か」であり、人口の多い国や割合の極端に高い国に強く引っぱられる。一方、真ん中の国の値は「国の数」で見た標準的な姿を示す。両者がずれているということは、多くの国が比較的低い水準に収まっている一方で、一部の国が全体を大きく押し上げていることを意味する。飢餓は世界に薄く広がっているのではなく、限られた地域に濃く集まっている、と読むのが正しい。
| 見方 | 値(2023年) | 何を表すか |
| 世界全体 | 8.5% | 世界の人口を分母にした割合 |
| 169か国の真ん中の国 | 5.3% | 国の数で見た標準的な水準 |
| 最も低い国々 | 2.5% | 統計上、これ以上は下げて示さない水準 |
| 最も高い国 | 54.2% | ハイチ |
出典: world_bank_wdi「Prevalence of undernourishment (% of population)」
低いほうは「横並び」になる
割合の低い側を見ると、アルジェリア、アルメニア、オーストラリア、オーストリア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、ベルギー、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブラジル、ブルガリアがいずれも2.5%(2023年)で並ぶ。地理的にも所得水準の面でも性格の違う国々が、まったく同じ値を取っている。
これは偶然ではない。この指標は、食べる量が必要量を下回る人の割合を推計するもので、割合が十分に小さくなると推計の精度が保てなくなる。そのため、ある水準より下はまとめて2.5%と表記される。つまり2.5%は「その国の正確な値」ではなく「統計として区別できる下限」である。順位表の上位で1位と10位を比べても意味はなく、この帯に入っているかどうかだけが読み取れる情報になる。
裏を返せば、この指標が国ごとの違いをはっきり示すのは、値が大きい側に限られる。低い側の国どうしを競わせるのではなく、高い側に何が起きているかを見るための道具だ、と考えたほうがよい。
出典: world_bank_wdi「Prevalence of undernourishment (% of population)」
高いほうは一気に開く
下位を見ると様子は一変する。ハイチが54.2%、ソマリアが53.2%、マダガスカルが39.5%、シリアが39.0%、コンゴ民主共和国(キンシャサ)が38.5%、ザンビアが37.2%、ケニアが36.8%、リベリアが35.5%、チャドが32.0%(いずれも2023年)。北朝鮮は47.0%だが、これは2018年の値で、最近の年の推計が得られていない。
| 国 | 割合 | 年 |
| ハイチ | 54.2% | 2023 |
| ソマリア | 53.2% | 2023 |
| 北朝鮮 | 47.0% | 2018 |
| マダガスカル | 39.5% | 2023 |
| シリア | 39.0% | 2023 |
| コンゴ民主共和国(キンシャサ) | 38.5% | 2023 |
| ザンビア | 37.2% | 2023 |
| ケニア | 36.8% | 2023 |
| リベリア | 35.5% | 2023 |
| チャド | 32.0% | 2023 |
真ん中の国の5.3%と比べると、最も高いハイチは10倍以上になる。低い側が2.5%という一点に集まるのに対し、高い側は32.0%から54.2%まで20ポイント以上にわたって散らばっている。順位表の上と下では、1つ順位が動くことの重みがまったく違う。
出典: world_bank_wdi「Prevalence of undernourishment (% of population)」
数字を見るときの三つの注意
第一に、割合であって人数ではない。人口規模が小さい国は割合が高くても人数は少なく、逆もある。「どれだけ多くの人が」を知りたいなら、割合だけでは足りない。
第二に、年がそろわない。169か国の多くは2023年の値だが、北朝鮮のように2018年で止まっている例がある。年の違う数字を同じ表に並べて順位をつけると、実態より新しい情報に見えてしまう。数字には必ず年を添えて読みたい。
第三に、低い側の値は動きにくい。2.5%の国が翌年も2.5%であることは「改善も悪化もしなかった」を意味しない。変化を追うなら、値が下限に張りついていない国を選ぶ必要がある。
こうした癖を踏まえたうえで、この指標は今も飢餓の広がりを国際比較できる数少ない共通のものさしである。全体の平均と真ん中の国、そして値が下限に張りついた国と大きく開いた国を分けて見ることが、読み違えを避ける最初の一歩になる。
出典: world_bank_wdi「Prevalence of undernourishment (% of population)」